好きな一行、本読まなきゃ。

好きな一行を切り口に、その本が読みたくなるブックログを目指してます。

伊坂幸太郎の道徳(モダンタイムス)

 

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

 
モダンタイムス(下) (講談社文庫)

モダンタイムス(下) (講談社文庫)

 

 モダンタイムス(伊坂幸太郎)からの一行。

人間は大きな目的のために生きているんじゃない。もっと小さな目的のために生きている。

あまりにも大きな問題に直面した時、 とるべき道は2つ。目を逸らして回れ右をするか、悪あがきをするか。

 

伊坂幸太郎は、悪あがきを推奨する作家だと思う。伊坂作品というと、軽妙な会話、気の利いた比喩、爽快感のある伏線回収が特徴的だ。そういうエンタメ的楽しさを通じて何を伝えたいのか?

 

「大きな物語の前で人は無力だ。だけど、今この瞬間に正しいと思うことをしよう。無駄な抵抗でもいいじゃないか」ということだと思う。モダンタイムス、魔王、砂漠、重力ピエロ、PK、死神の精度、ポテチ、フィッシュストーリー、、、あげればキリが無いけど、同じことを色んなテーマで言っている。重力ピエロでは、この悪あがきを気休め、とも呼んでいる。その場限りの安心感が人を救うこともあると。

 

宇宙のことを考えると怖くなる。自分のちっぽけさ、宇宙の時間からいうと人生が一瞬であることが怖い。結局、何をしてもいつか死ぬし、関係ない、と絶望してしまう。だけど、伊坂的にいえば、人生は要約できない、要約しようとして削ぎ落とした下らない会話や瞬間の積み重ねが大事だったりする。気休めだ。

 

大きな物語に対抗するのは、無駄なことかもしれない。だけど、悪あがきくらいしてみよう、どうせ死ぬけど、気休めくらい楽しもう、目の前の人を助けても世界は全く変わらない、だけど、それでいいじゃないか。

 

青臭いかもしれないけど、色んなことを悟って、諦めがちな世の中で、伊坂さんの”無駄な抵抗”はとても心地よく聞こえる。小説で、たくさんの人を動かすことはできないけど、もしかしたら誰かの価値観に影響して、誰かを救うかもしれない。5人くらい。

ムードや空気というものは、誰かの抱いた憎悪や恐怖や不安が、他の人間に拡散したものだ。

モダンタイムスでは、こんなことも言っているけど、逆もしかり。勇気とか楽観も誰かから拡散していく。だから、小学校とか中学校の学級文庫に伊坂作品を置いておいたら、そのクラスから邪悪が消えるかもしれない。もしかしたら、町1つのムードくらいよくできるかもしれない。バタフライ効果的に。

 

何か大きなものに潰されて、息苦しくなっている時に読みたい1冊。